【“旅は人を育てる”コラム】大嫌いな奴の性根が国民性なのかを解明するため、私はインドへと向かった

 

このたび、HOLICCのパートナー企業の一つ、SHE株式会社の運営するSHElikes(シーライクス)にて「旅は人を育てる」というテーマでコラムを募集しました。

SHElikes(シーライクス)は21世紀を生きる女性たちが自分らしい働き方を叶えられるよう、Webデザインやマーケティング、ライティング等、28(※2021年12月現在)のスキルが身につくコースを提供しています。

そんなSHElikes(シーライクス)で学ぶ受講生から寄稿された30本以上のコラムから、見事「HOLICC大賞」を受賞した作品をご紹介します。


◆「HOLICC大賞」受賞
ライター:深森サラさん

「大嫌いな奴の性根が国民性なのかを解明するため、私はインドへと向かった」

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海外旅行が好きだ。「溢れる香りをガウディと分かち合いたい」とか「カニ人間に会いたい」といった具合に、だいたい観光地を基準に行き先を決めている。ただ、一度だけ「大嫌いな奴の性根が国民性なのか」を確かめたいという独特な理由で訪れた旅先があった。

 

 

インドだ。

大嫌いな奴の性根が国民性なのか。結論から言うと半々だと感じた。このインド旅行を通して感じたことを書いておきたい。

 

大嫌いな奴のせいでナンにでも腹が立つようになっていた

5年ほど前、私は公私ともにうまくいかず、弱っていた。そんな折、ひとりのインド人男性と出会った。私に一目惚れした彼は、私がどんなに素晴らしいかを数か月に渡って熱弁し、付き合いたいと繰り返した。最初は価値観が合わない予感がしたものの、次第に熱意に惹かれ、付き合うことに。その直後に事件が起こる。
私は運動中に足を怪我し、ギプス生活になったのだ。完治するのか不安な一方で、こんなときに優しい彼がいてよかったと、心底ホッとした。しかし、彼に怪我を伝えたところ、そこからほとんど連絡が来なくなり、ついには「もう君に魅力を感じない」と、振られた

は?

理不尽すぎるやろ。私はことばを失った。電話で告げられたのだが、何も返すことばが見つからず、洗濯機の脱水音がやけに大きく聞こえたのを覚えている。
とはいえ、断じてタイプだったわけではない。全く未練はなかった。
ただ、思わぬ後遺症が残ってしまった。インドの方を見ると、奴の面影が頭をよぎり、腹が立つようになってしまったのだ。

ボリウッド映画を観ては「踊る前にやることがあるやろ」と腹を立て、インド料理屋でナンのおかわりをすすめられては「そんなに食べられるわけないやろ」と憤怒する始末だった。前者に関しては未だに「先に敵を倒した方がいい」と思うが、後者に関しては完全なるとばっちりだと思う。

そんな具合に「インド人だから」という理由で見境なく腹を立てるのはレイシスト(人種差別主義者)と何ら変わらない。私は自分が一番なりたくない存在になってしまった。たった一人のせいで、その国の人が全員そうだと決めつけるのは浅はかすぎる。
私はたくさんの人に会うことでイメージを上書きしてもらえば、気持ちよくナンのおかわりができるのではと考えた。

一年後、足がしっかり治ったこと確認して、インドへ向かった。

 

インド人はドリカムみたいな人が多かった

訪れたのはデリー、アーグラ、アブハネリ村。

 

 

それぞれの観光名所のすばらしさは、すでに多くの人が語っているため、割愛する。

私はひとりで旅をしていたのだが、とにかく人が寄ってきた。RPGの序盤で村人から情報収集をしないといけない主人公のように、人が垂直に方向転換をしてでも話しかけに来る。

理由はさまざまだが、一番多かったのは「いっしょに写真を撮ってほしい」という理由だった。
私は顔面が青白い。そして、インドでは色白が人気らしい。肌を白く見せるパウダーが街中のスーパーで市販されるくらいだ。
「あいつ、色が白いからツーショットを撮りたいな(願望)」→「写真を撮ってください(行動)」がとてつもなく速いように感じた。ほぼ反射だ

 

 

イスラム教の礼拝所・ジャマー・マスジットの塔を見上げていると、視線のはしに高速で動くピンク色の物体が見えた。2万人を収容できる大広場を横切り、女の子が私をめがけて走ってきたのだ。英語を話せない彼女は私を指さして「プリンセス!」と叫びながら近づき、スマホを指さして写真を撮りたい旨を必死に訴えてきた。絶対に願望を叶えようと、押しが強い。気迫がすごかった。

もうひとり、さっぱり目的を理解できない願望を押し続けたおっさんの話を。旅の目的地のひとつ、階段井戸のチャンドバオリがあるアブハネリ村に行くためには、どうやっても途中から車での移動が必要だった。安全を考え、渡航前にドライバーを手配していたが、知らずに日本語ガイド付きのプランを予約してしまっていた。

 

 

 

観光地では英語が通じるため、はっきり言ってガイドは不要だ。私より先にガイドのおっさんがその事実に気付いた。おっさんは「あなた様には私は不要です」とすね始めた。ラジオの交通情報並みのペースで「あなた様には私は不要です」を挟み込んでくる。同じフレーズ、同じ抑揚で。それを言われてどないせい言うねんという腹が立ったが、狭い車中で2日間旅路を共にするおっさんだ。揉めると身に危険が及ぶ可能性もある。「そんなことないです~」「頼りにしています~」といなし続け、非常に疲れた。慰めのことばが欲しいなら、お金を払ってキャバクラとかに行って欲しい。インドにあるか、知らんけど。
客の私が気を遣うだろうという配慮をする発想はなく、言ってどうなるということもなく、「私は拗ねた」と主張したい願望が勝つようだ。

滞在中、押しが強いマンには事欠かず、道を歩けば出会う状態だった。デリーを少し歩くと、物乞いの子どもたちに取り囲まれ、「財布の金ぜんぶ抜く!」という勢いで迫られるのも日常風景だった。みんな困っているのだから当たり前だよね。
ほかにも押しが強いマンとたくさん出会ったが、エピソードをすべて書くと長編になるため、これくらいで。

とにかく一事が万事、押しが強かった。1万回だめでへとへとになっても1万1回目にチャレンジできるドリカムのような国民性なのだ。

 

気が合うかどうかをはかる2つの軸

この旅で再確認したことがある。人が周りにどのような影響を与えるかについては、価値観の良し悪しだけではなくアウトプットの度合いという軸が関わるのでは、ということ。

例えば、もし世界を滅ぼしたいと邪悪な野望をもっていても、その価値観の持ち主が電波のない部屋に閉じこもったままのアナログな自宅警備員であったら、社会への悪影響はゼロだ。
一方で、「あいつ、タンスの角に足の小指ぶつけたらええねん」という小さな呪いも、実際に本人の耳元でお伝えするというアウトプットがあれば、気味が悪く非常に悪影響だ。

インドの方の価値観はそれぞれだと思うが、アウトプットが速く、粘り強いという国民性があるように感じた。それが「押し」だ。私がカースト外ということもあるかもしれないが、思い立ったことをすぐに言ってくる印象がある。

今回の旅で、私は自分のアウトプットが遅く、弱いことを改めて実感した。ドリカム風に置き換えると、たった1回でもダメだったら、すぐに諦めて、ヘトヘトにならないように細心の注意を払うタイプだ。
このようになんとなく気付いていた自分の実像に、もう少しくっきりと輪郭を与えてくれるのが海外旅行の醍醐味だ。自分の輪郭が見えると、身近な人の輪郭も見えてくる。

一方で、押しが強いという国民性はあくまで傾向で、全員に当てはまるわけではないということも知れた。関西弁でクレームを入れる外国人のおばさん(=私)に面くらって、いまにも逃げ出しそうな店員のお兄さんや、「お金はいいから、そのパンだけくれない?」と、控えめにお願いしてくる物乞いの女の子もいた。

国民性という傾向はグラデーションとしてあるものの、世界にはいろんな人がいて、どこにだって自分に合う人はいる。地球の裏側で運命の相手と出会う人もいるし、同じ屋根の下で暮らす親と一生ソリが合わない人もいる。

 

 

気の合う人はきっと、価値観が近く、アウトプットが心地よい人だと思う。
大切なのは自分の軸がどうかを把握しておいて、気が合う人を見つけたら大切にすること。この旅で、気が合う友だちのありがたみを実感した。

そして、気が合わないとわかったら、距離を取ることも大切。相手や自分の軸がガラリと変わって、良い影響を与え合える関係を築けるようになることなんて、ほとんどないからだ。一緒にいると居心地の悪い相手に合わせて、自分をすり減らさなくて大丈夫

大嫌いな奴の性根の話に戻ると、相手が弱っていると知るや興味が失せるという腐った価値観は本人の特徴で、有益と感じるや数か月にわたってプレゼンをできる根性は国民性のように感じた。私は押しが強いのは苦手だし、そもそも性根が腐っているのはどうかと思う。全く合わないタイプなのだ。インド旅行を経た、いまの私なら見抜けるはずだ。
いまごろタンスの角に足の小指をぶつけてほしいと静かに願う。

 

そんなわけで、私は気の合う友だちを誘って、気持ちよくナンをおかわりできるようになりました。

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(ご協力:SHE株式会社)

 

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